夜になるとケージの柵をガリガリかじる。天井にぶら下がっては落ちる。扉の前で待ち構えている。ハムスターがケージから出たがる様子を見ていると、かわいそうなのか、自分の飼い方が悪いのか、だんだん不安になってきますよね。
私も飼い主のひとりとして、この行動が何なのかを一度きちんと調べてみました。行動学の研究やメーカーの公式情報、動物福祉団体の資料まで当たると、ストレスや運動不足というひと言では片づかない話が出てきます。
この記事では、出たがるサインの見分け方から、外に出すべきかどうかの判断、ケージの中で何をどう変えるかまで、順番に整理していきます。
- 柵をかじる、よじ登るという行動の意味と、原因の見分け方
- 研究でかじりが減った順に並べた、ケージの中の見直しどころ
- やりがちで逆効果になる対応と、部屋んぽを安全に行う条件
- 脱走と歯のトラブルのリスク、動物病院に相談する目安
ケージから出たがるとき、ハムスターは何をしているのか
まず、いま目の前で起きていることを整理しましょう。ケージから出たがるハムスターがよく見せる動きは、大きく4つに分かれます。そして最後に、その動きを「出たがっている証拠」と決めつけないほうがいい理由も書きました。
ケージによじ登る、天井にぶら下がる
金網の天井に前足をかけて登り、しばらくぶら下がってからポトッと落ちる。夜中にこれをやられると、見ているこちらが冷や汗をかきますよね。
この光景について、気になって調べていたら興味深い報告を見つけました。ケージの広さを4段階に分けて比べた研究で、狭いケージの子ほど、木製の巣箱の屋根を足場にして登る回数が多かったそうです。
研究者はこれを「もっと広さを必要としていたことを示唆する」と書いていました。登る場所を探している姿だと考えると、うちの子の動きの意味も少し違って見えてきませんか。
入口のあたりをカリカリ引っかく、掘る仕草をする
扉の前や角で、床を掘るときと同じ動きを繰り返す子もいます。前足を交互に動かして、何もないところをカリカリと引っかく動きです。
掘る動作そのものは、ハムスターにとってごく自然な行動でした。後の章で書きますが、野生のハムスターは地面に深い巣穴を掘って暮らす動物です。問題は動きではなく、その動きが向いている場所のほうにあります。
ケージや扉の金具を噛む
いちばん多く相談されているのが、これでしょう。扉のロック部分、フレーム、キャップのまわりといった、口をかけやすい金属やプラスチックの縁を集中的に噛みます。
音が響くので気づきやすく、そのぶん飼い主のストレスにもなります。ただ、この行動は「うるさい」で終わる話ではありません。歯のほうに影響が出ることがあるので、後ろのほうの章であらためて書きます。
飼い主が近づくと寄ってきてアピールする
扉の前で待ち構えていて、こちらが近づくと立ち上がってこちらを見る。開けた瞬間に飛び出そうとする子もいますね。かわいいので、つい応えたくなります。
ここで正直に書いておくと、この4つの仕草を「出たがっている証拠だ」と一次の資料で裏づけた研究は、私が探した範囲では見つかりませんでした。上位の記事はどこも同じ仕草を挙げていますが、根拠までは示されていません。
その仕草を「出たがっている証拠」と決めつけないほうがいい理由
では何が言えるのか。ケージを作っているジェックスが、公式の問い合わせページでかじる原因を3つ挙げていました。これは製品を作っている側が出している情報なので、はっきりした手がかりになります。
- ストレスが溜まっている
- 外に出たがっている(遊び足りない)
- 歯が痒い、歯が伸びている
3つが並んでいる、というところが大事です。ネットでは「ケージをかじる=ストレス」と等号で結ばれがちですが、実際には運動不足でも歯の状態でも同じ行動が出ます。原因を1つに決めてしまうと、対処もずれます。
同じページには、かじる・かじらないには性格の個体差も深く関わる、とも書かれていました。かじらない子はまったくかじりません。うちのジャンガリアンも、今のところケージはかじらずに過ごしています。
なぜ出たがるのか。野生のハムスターの暮らしを知ると見えてくる
原因を1つに決められないなら、そもそもこの動物がどう暮らす生き物なのかを知っておくと、判断の軸ができあがります。ここは飼い方の話から少し離れますが、私が調べていていちばん驚いた部分でした。
野生の巣穴は深さ36〜106cm、通路の長さは平均で200cm
ペットのゴールデンハムスターのもとになった野生の個体は、シリア北部の農耕地帯に暮らしています。2001年に発表された野外調査の論文を読むと、その巣穴の中身が細かく記録されていました。
調べられた巣穴の深さは36cmから106cm。垂直の入口が1本あって、そこから巣室へつながり、巣室からさらに2本以上のトンネルが分かれる作りでした。通路をぜんぶ合わせた長さは平均で200cm、長いものは900cmあったそうです。
行き止まりのトンネルの1本は、おしっこ用に使われていたとも書かれています。しかも使用中の巣穴は、入口が土の塊できちんと栓をされていました。想像していたより、はるかに手の込んだ住まいですよね。
他の個体と100m以上離れて、単独で暮らしている
同じ調査で、もう1つ驚いた数字があります。使われている巣穴どうしの距離は、いちばん近いもので118m離れていました。
つまり本来は、他の個体と100m単位で距離を取り、たった1匹で広い縄張りを持って生きる動物なのです。多頭飼いが難しいと言われる理由も、ここを知ると腑に落ちます。
ケージは、深く潜ることと広く歩き回ることの両方が削られた箱
ここまでの2つを並べると、飼育ケージが何を満たせていないのかがはっきりします。深く潜ることと、広く動き回ること。ケージという箱は、この2つが同時に削られた環境です。
誤解しないでほしいのですが、これは「飼うな」という話ではありません。足りていないものがわかれば、何を足せばいいかもわかる、というだけの話です。次の章から、その中身に入っていきます。
余談ですが、同じ研究チームは「野生のゴールデンハムスターは昼行性だった」という報告も出しています。飼育下では見事に夜行性なのに、野外ではメスがほぼ昼に動いていたそうです。飼育の実務としては、日中は寝ている前提のままで問題ありません。
柵をかじり続ける行動には、行動学でついている名前がある
ケージの柵をかじり続ける行動には、研究の世界できちんとした呼び名がついています。この呼び名を知っておくと、うちの子だけの問題ではないことがわかります。
研究では「常同的な金網かじり」と呼ばれている
専門的な言い方だと「常同的な金網かじり」。日常の言葉に置き換えると、同じ動きをずっと繰り返してしまう行動のことです。ハムスターに限らず、飼育下の動物で広く観察されています。
ここは誤解のないように書いておきます。これは行動につけられた名前であって、病名ではありません。「うちの子は常同行動です」という診断のような使い方をする言葉ではないのです。
飼育環境が足りているかを測る物差しとして使われてきた
この行動が面白いのは、研究で「物差し」として使われてきた点です。ベルン大学の獣医学部にある研究チームは、この行動が出る回数と続く時間を測って、飼育環境が足りているかどうかを判定していました。
言い換えると、環境を変えれば増えたり減ったりする行動だということです。性格の問題として片づけるのではなく、変えられる余地があると考えていい。次の章は、その「何を変えると減ったのか」の話になります。
何を変えるとかじりは減るのか。研究で効いた順に並べる
この記事でいちばん伝えたいのがここです。先ほどのベルン大学の研究チームは、飼育環境の条件を1つずつ変えて、かじる行動がどう変わるかを調べていました。効き目の大きかった順に並べます。
先に断っておくと、どれも実験室のゴールデンハムスターを対象にした研究です。家庭のジャンガリアンにそのまま当てはまるとは限りません。それでも、方向を決める材料としては十分すぎるほど具体的でした。
1番目は床材の深さ。いちばん効いた介入
結論から書きます。いちばん効いたのは、床材を深くすることでした。かじり木でも回し車でもなく、床材です。私も最初に読んだときは意外でした。
2006年に発表された実験では、オスのゴールデンハムスター45頭を、木材チップの床材が80cm、40cm、10cmの3つのグループに分けて飼っています。1グループ15頭ずつです。
結果はこうでした。床材10cmのグループは、他のグループより明らかに多く金網をかじり、回し車を回す量も多かった。40cmと80cmのグループは全頭がトンネルを掘って住み着き、用意されていた巣箱を寝床にも食料庫にも使いませんでした。
そして床材80cmのグループでは、金網をかじる行動が一度も観察されなかったそうです。研究者自身が「深い床材を与えることが福祉改善のうえで最も重要に見えた」と書いていました。
もちろん家庭で80cmは現実的ではありません。目標にするのは数字ではなく方向です。今より厚く、その子が全身で潜れる深さまで増やす。掘れる素材を選ぶ。まずはそこだけで十分だと思います。
私が使っているのは紙の床材です。増やすときに毛羽立ちや粉が気になるかどうかは商品でけっこう違うので、いつも同じものを買い足しています。

面白いのは、ケージを作っているジェックスの公式ページでも、かじる対策として「床材を厚く敷いて掘れる・潜れる環境を作ってあげること」が挙げられている点です。大学の実験とメーカーの説明が、別々の道から同じところを指しています。
同じ研究では、床材が深い個体ほど活動を始める時刻が後ろにずれ、脂肪の蓄積も多かったと報告されています。研究者自身が「体内時計の乱れは福祉上の問題を示している可能性がある」と留保をつけていました。深くすれば万事解決、という単純な話ではありません。
2番目は回し車が「ちゃんと回っているか」
「回し車ならもう入れているのに、それでも出たがる」という方に読んでほしいのがこの節です。ポイントは、置いてあるかどうかではなく、それがきちんと機能しているかどうかにあります。
2005年の実験が、そこを直接調べていました。メスのゴールデンハムスター20頭を、直径30cmの回る回し車を与えた10頭と、見た目は同じなのに回らない回し車を与えた10頭に分けています。
どちらも床材や巣箱、牧草、かじれる枝まで入った広めのケージです。それでも、回る回し車のグループのほうが、登る行動と金網かじりが明らかに少なかった。オスでも同じ結果が再現されました。
研究者は「餌と水が自由に取れる広く豊かなケージで飼う限り、回し車に有害な影響は見られなかった」ともまとめています。だから、いま使っている回し車を一度点検してみてください。軸が重くなっていないか、音が変わっていないか。
3番目は回し車のサイズ。背中が反っていないかを横から見る
サイズについては、ハムスター自身に選ばせた実験があります。複数のケージをトンネルでつなぎ、それぞれ違う回し車を置いて40日間の回転数を数える、という方法でした。
結果は明快で、直径35cmと23cmでは35cmがはっきり選ばれました。円が欠けた形のものより、完全な円形のほうも選ばれています。走る面については、9mm間隔の金属棒とプラスチックメッシュを張ったもので差はありませんでした。
この論文で私がいちばん納得したのは、小さい回し車の難点として挙げられていた一文です。ハムスターが「背中を反らせた不自然な、おそらく不快な姿勢で走らざるを得ない」と書かれていました。
日本の飼育情報でもよく「背中が反らないサイズを」と言われますよね。あの言い方に、そのまま裏づけがついた形になります。横から見て、走っているときに背中が丸く反っていないか。これは今夜すぐ確認できるポイントです。
ただし、市販の回し車で35cmはまず見つかりません。たとえばジェックスのハーモニーホイールは14cm、17cm、21cm、30cmの4サイズ展開で、最大でも30cmです。研究の数字は、そのまま買い物リストにはならないのです。
実務的な落としどころは「今のケージに収まる範囲でいちばん大きいものへ」になります。ケージ側にも適合表があり、グラスハーモニーの450Nと450N Highなら21cmまで、600Nとマルチ600Nなら30cmまで取り付けが可能です。
買い替えるなら、適合表で上限を確認してから選んでください。うちは静かさを優先して14cmを使っていますが、体が大きくなってきた子なら、入る範囲で大きいほうへ替える価値はあると思います。

同じ論文は「大きければ大きいほどよい」とは言っていません。ケージ内で唯一の遊び道具が快適な大きい回し車だと、走りすぎて体重が落ちたり足を怪我したりすることもある、と書かれています。この実験でわかるのは「どちらを選ぶか」までで、長期的な健康への影響は別の話だと研究者自身が認めています。
4番目はケージの広さ。効くけれど、これだけでは終わらない
広さについても、4段階で比べた実験があります。メスのゴールデンハムスター60頭を、1,800、2,500、5,000、10,000平方センチの4サイズのケージで1匹ずつ飼い、床材の深さや巣箱、直径30cmの回し車といった条件はそろえたうえでの比較でした。
小さいケージの個体は、大きいケージの個体より明らかに長く、明らかに頻繁に金網をかじりました。冒頭で紹介した「巣箱の屋根を足場に使う」も、狭いグループのほうが多かったのはこの実験です。
ただ、ここからが大事なところ。いちばん広い10,000平方センチのケージでも、金網をかじる行動は観察されました。かじる回数と時間以外に、ケージサイズによる行動の差は見られていません。
研究の結論は「床面積が最低でも10,000平方センチあるケージのほうが、それより小さいケージに比べて福祉が高まるように思われた」という、かなり慎重な言い方でした。広さは効く。でも広さだけでゼロにはならない。この二段構えで受け取ってください。
5番目は巣箱。暗くて奥まっているかで選ぶ
巣箱についても、5週間かけて観察した実験がありました。メス30頭に、小さい巣箱、大きい巣箱、大きくて仕切りのある巣箱の3種類を与えています。
結果は、例外なく全頭が巣箱の中で寝ました。しかも寝る場所は3グループとも、入口から見ていちばん遠くて暗い区画です。仕切りのある大きな巣箱では、手前の部屋で寝た個体は1頭もいませんでした。
研究者の結論は「深い床材がある場合を除き、巣箱は常に用意すべき」というもの。巣箱は置いてあるかどうかではなく、暗くて奥まっているかで選ぶ、という具体に落ちます。透明で中が見える巣箱はかわいいのですが、暗さという点では不利かもしれません。
効いた順の早見表

ここまでを1枚にまとめます。上から順に手をつけると、費用の負担も小さい順に並びます。
| 順番 | 変えるところ | 研究でわかったこと | 家庭での落としどころ |
|---|---|---|---|
| 1 | 床材の深さ | 80cmのグループでは金網かじりが一度も観察されなかった | 今より厚く、全身で潜れる深さまで増やす |
| 2 | 回し車が回るか | 回る回し車のグループは、回らないグループより登りとかじりが明らかに少なかった | 軸の重さ・音・回転を点検する |
| 3 | 回し車のサイズ | 直径35cmが23cmよりはっきり選ばれた | ケージに収まる最大サイズへ。横から見て背中の反りを確認 |
| 4 | ケージの広さ | 狭いほど長く頻繁にかじった。ただし最大サイズでもかじりは残った | 買い替えは最後でよい。まず床材と回し車 |
| 5 | 巣箱 | 全頭が巣箱で寝て、いちばん暗い区画を選んだ | 暗くて奥まった形のものにする |
あなたのケージは足りているか。市販ケージの実寸と研究の面積を並べてみる
10,000平方センチと言われても、ぴんと来ませんよね。1辺が1mの正方形とほぼ同じ面積です。では、いま日本でよく使われているケージはどのくらいなのか。手元の数字で確かめてみましょう。
日本でよく使われているケージの床面積を計算してみる
公式の寸法表記から、床面積をざっくり計算してみます。いずれも外寸なので、実際に使える内側の面積はこれより小さくなります。あくまで目安として見てください。
| ケージ | 公式の寸法表記 | 床面積の概算 |
|---|---|---|
| グラスハーモニー450N | 約47×31×28.2cm | 約1,450平方センチ |
| ルーミィ60 ベーシック | W620×D450×H315mm | 約2,790平方センチ |
正直に書くと、私が使っているのは上の450Nです。ハムスターを飼うのが初めてで、ペットショップの店員さんにすすめられて買いました。あとから面積を計算して、「あ、これはいちばん小さい区分か」と少し気まずくなったのを覚えています。
研究が挙げた10,000平方センチと比べると、どのくらい足りないのか

先ほどの実験の区分に当てはめると、こうなります。ルーミィ60ベーシックでも、実験でいう2,500平方センチのクラス。グラスハーモニー450Nは、いちばん小さい1,800平方センチの区分に近い位置です。
研究が「ここから福祉が高まるように思われた」とした10,000平方センチには、どちらも届いていません。数字だけ見ると、けっこう厳しい話に見えますよね。
それでも、ここで「市販のケージはぜんぶダメだ」と結論するのは早すぎます。私はそう受け取っていません。理由が3つあるからです。
それでも「まず買い替え」にしなくていい3つの理由

- あの実験の対象は、実験室で1匹ずつ飼われたメスのゴールデンハムスター。ジャンガリアンなど小型の種類にそのまま当てはめる根拠はない
- 同じ実験で、いちばん広い10,000平方センチでもかじりは観察された。広さだけの問題ではない
- 床材の深さのほうが効いたという別の実験がある。買い替えより先に、今日できることが残っている
だから私は、ケージを買い替える前に別のことをしました。ダイソーで買ったクリアケースとハムスターパイプをつないで、2階を作ったのです。パイプのキャップ部分が気に入ったようで、そこが定位置になりました。
今では自分で餌を運んでその前に並べています。見ていて飽きません。ただ、これを手放しでおすすめする気にはなれません。つなぎ目のすき間と、落ちたときの高さは、作った本人がいちばん気になっている部分だからです。
床面積を測って足りないと感じたなら、まずは床材の量を見直す。それでも変わらないなら、そのとき初めて買い替えを考える。この順番で私は納得しています。買い替えを検討する段階になったら、品種別の必要サイズと失敗しない選び方をまとめた記事のほうに具体的な比較を書いています。
よかれと思ってやると逆効果になること
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい章かもしれません。かわいそうだと思ってやっている行動が、かじる行動を強くしている場合があります。
かじった直後に扉を開ける、餌を与える
ジェックスの公式ページを見ると、ロック部分をかじった直後に扉を開けたりエサを与えたりすると、ケージをかじる習慣がつく可能性があるので注意してほしい、と書かれていました(出典: ジェックス「ハムスターがケージをかじってしまう原因を知りたい。」)。
これは飼い主にとって、なかなかきつい話です。夜中にガリガリやられて、かわいそうになって扉を開ける。その一度が「かじれば開く」という関係を作ってしまう可能性がある、ということですから。
ただ、裏を返せば対処もはっきりします。かじっている最中は応じない。かじりが止んで落ち着いてから、扉を開ける、餌を渡す。順番を入れ替えるだけです。
ここが上位の記事とこの記事でいちばん違うところだと思います。多くの記事は「出してあげましょう」で終わっています。でも公式の注意と、床材や回し車の実験を並べると、答えは「まずケージの中を変える。出すのはその後」のほうへ寄ります。
音を出して驚かせる、叱る
やめさせたい一心で、ケージを叩いたり大きな音を出したりする方法を見かけることがあります。これは同じジェックスの公式ページが、はっきり否定していました。
「決してガラスを叩く・音を出す等、ハムスターを驚かせることのないようにしてください」と明記されています。かじる・かじらないには性格の個体差も関わるため、驚かせて止めようとする対応は避けてください。
動物病院の解説を読んでも、大きな音や急な動き、強い光はハムスターにとって大きなストレスになるとされていました。ケージは直射日光の当たらない、やや暗めの場所へ。隠れられる場所も複数あるといい、とのことです。
出す時間を決めずに、その日の気分で出す
「一度出したら毎日出さないとかわいそう」という言い方を、あちこちで目にします。この板挟みで悩んでいる方は多いでしょう。
公式の注意から言えるのは、出す・出さないの二択より前に決めるべきことがある、ということです。それは「いつ出すかを、ハムスターの要求ではなく飼い主の側で決める」という一点になります。
出すと決めたなら、時間を決めて一貫させる。かじっている最中は開けない。出さない日は、その分ケージの中に変化を足す。この形なら、要求に押し切られる感じは消えます。
それでも外に出したいときの条件
ここまで読んで「じゃあ部屋んぽは禁止なのか」と思われたかもしれません。そうではありません。動物福祉の団体も、条件つきでケージ外の探索を認めています。その条件のほうを見ていきましょう。
サークルの中で、目を離さずに

イギリスの動物福祉団体RSPCAが出している飼い主向けの資料には、こう書かれていました。起きているときに、見守りながらケージの外を探索する機会を楽しめる可能性がある、と。
そのうえで条件が添えられています。逸走しないよう目を離さないこと。そして小動物用の運動サークルを用意すると、安全に運動と探索をさせられる、と具体的な道具まで書かれていました。
同じ団体の別の資料には、やってはいけないことも並んでいます。眠っているときは邪魔しない。面識のない個体どうしを一緒にしない。犬や猫がいるなら近づけない。そしてケージの外に出したまま放置したり、夜通し出しっぱなしにしないこと。
出す前に部屋を片づける
同じ資料で、部屋の下準備として挙げられていたのは2つ。電気コードを覆うことと、有害な植物を置かないことでした。
日本の飼育情報でよく挙げられる注意点も、方向は一致しています。ただし1つずつの一次の裏づけまでは辿れなかったので、あくまで先輩飼い主たちの共通見解として受け取ってください。
- 絶対に目を離さない
- 先に床を片づけて掃除しておく
- 電気コードは覆うか、届かない位置へ動かす
- 家具のすき間や裏側をふさぐ
- 水槽や鍋にはフタをする
- 犬や猫など他のペットは別の部屋へ隔離する
出さないほうがよい時期と状況
迎えたばかりの時期については、はっきりした案内がありました。RSPCAは、家に着いてから24時間はそっとしておくよう書いています。ただし餌と水は与え、病気や怪我の兆候がないかは確認する、という条件つきです。
日本の飼育情報では「最初の1週間は触らずに見守る」がよく示されます。こちらは一次の資料までは辿れませんでした。少なくとも最初の1日はそっとしておき、1週間ほどかけて慣らす、くらいに受け取るのがちょうどいいと思います。
このほか、妊娠や育児の最中、ケージ内のトラブルが解決していない個体、寒い時期は避けたほうがいいという指摘もあります。ただしこれは専門サイトの経験則で、一次の裏づけまでは確認できていません。論点として頭に置いておく程度でどうでしょう。
ハムスターボールが動物福祉団体から推奨されていない理由
透明な球体にハムスターを入れて部屋を転がすハムスターボール。運動不足の解消によさそうに見えますが、先ほどのRSPCAは使用を推奨しないと明記していました(出典: RSPCA「Hamster Balls」)。
理由として挙げられていたのは、次の4つです。読んでみると、どれも「なるほど」と思う内容でした。
- ハムスターは視力が非常に弱く、触覚・嗅覚・聴覚で環境を知る。ボールの中ではその感覚が制限され、強いストレスになりうる
- 中では自分で環境をコントロールできず、餌・水・寝床にも近づけない
- 家具などにぶつかった場合、極度のストレスになりうる
- 通気孔に足や脚を挟んだり引っかけたりして怪我をするおそれがある
「だから絶対に使うな」と断罪するつもりはありません。ただ、同じ団体が代わりに勧めているのがサークルです。外で運動させたいなら、まずそちらを検討してみてください。
出たがる行動を放っておくと何が起きるか
ここからは、脅すためではなく判断材料として書きます。出たがる行動を放っておいたときに現実に起きるのは、脱走と、歯のトラブルの2つです。
扉の開け方を覚える個体がいる
これはメーカーの注意事項に書かれている話です。三晃商会はルーミィ60ベーシックの製品ページで、扉部や上部キャップについて「個体によっては開け方を学習してしまう場合もあります」と明記しています。
同じページには、ケースの内部を激しくかじる個体もいるので脱走等の危険を感じたら使用を中止してほしい、とも書かれていました。特にゴールデンハムスター、という但し書きつきです。
ちなみに回し車の研究論文でも、ハムスターは「優れた登り手であり脱走の名人」と表現されていました。研究者にそう書かれるくらいですから、こちらの想像を超えてくるのが普通なのでしょう。
ここで私の失敗談を1つ。次男が入院していた時期のことでした。妻が付き添いで病院に泊まっていたので、私と長男の2人で1か月ほど暮らしていたんです。
仕事をしながらほぼ毎日病院にも通っていたので、正直かなり疲れていたと思います。餌をあげるためにケージを開けて、扉は閉めた。でもロックが甘かったんでしょうね。
朝起きたら扉が開いていて、ハムスターがいませんでした。ケージは2階に置いていたので、階段を降りられていたら最悪だ、と血の気が引きました。声を出しながら家中を探しました。
結局いたのは、2階の奥の物置です。近づくとガサガサ音がする。衣装ケースの中に置いた、高さ60cm以上あるクリアケースの中でした。ダウンコートをかき分けたら、ひょっこり顔を出したんです。
いや、あのときは本当に焦りました。皆さんもロックには気をつけてください。成長すると、思った以上にパワーもジャンプ力もついています。60cm以上の高さを自力で登っていたわけですから。
脱走の防止は、飼い主の努力義務としても書かれています。環境省の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」には、飼養施設を逸走の防止に配慮した構造にすること、点検などの管理に努めること、そして逸走したら自らの責任で速やかに捜索し捕獲することが定められています。
同じ基準には、その動物の生態や習性に応じた運動と休息を確保し、本来の習性が現れるよう努めることも書かれていました。掘る、潜るを満たすという話は、公的な基準の言葉ともつながっているわけです。
かじり続けた先にある歯のトラブル
もう1つが歯です。エキゾチックアニマル専門の獣医師が書いた解説を読んでいて、ここはきちんと知っておくべきだと感じました。
ハムスターを含むげっ歯類の前歯は、一生伸び続けます。上下の前歯が当たって削れることで、ちょうどいい長さが保たれる仕組みです。そしてハムスターの前歯は、骨にゆるく結合しているとのことでした。
この構造のため、上下の前歯で金網を噛むと歯が異常な方向へ矯正されてしまいます。その結果、噛み合わせが崩れて不正咬合になる、と解説されていました。金網をかじる行動と歯のトラブルは、こうしてつながっています。
伸びすぎた前歯は、もろくなって折れます。金網に引っかけて折れることもあれば、骨折を伴う事故が起きることもあるそうです。折れた前歯がその後伸びなくなったり、歯の根元に感染を起こしたりする場合もあると書かれていました。
さらに歯の根元に負荷がかかり続けると、しこりができたり、膿がたまったりすることもあるとのこと。下の顎なら顎が腫れて膿が出る、上の顎なら目が飛び出して目から膿が出る、という形で表に現れます。
そして厳しいのが、多くの場合で完治が難しいという点です。伸びたら定期的にカットしていくことになり、間隔は状態によって短いと2週間、長いと2か月ほどが目安とのことでした。
歯には神経が通っているため、飼い主が自宅で歯をカットすることは推奨されていません。伸びすぎが気になるときは、必ず動物病院で相談してください。
予防として同じ解説に挙げられていたのは4つ。ケージから金網をなくすこと、かじってよいかじり木を用意すること、レイアウトを変えたり広いケージにしたり回し車で運動量を増やすこと、そして硬い餌を増やすことでした。
金網をなくすというのは、金網ケージならアクリルやガラスの水槽タイプへ替える、天井だけ金網なら口が届かないレイアウトにする、という意味です。前の章の対策と、行き着く先は同じでした。
動物病院に相談したほうがいい目安
初期のサインとして挙げられていたのは「元気なのに餌があまり減らない」でした。前歯が伸びすぎたり噛み合わせが崩れたりすると、うまく食べられずに痩せていくためです。
- 元気なのに餌の減りが遅い、痩せてきた
- 前歯の長さや向きがいつもと違う、欠けている
- 顎が腫れている、目が飛び出している、目やにや膿が出ている
- 足を引きずる、片足を浮かせている
いちばん下の項目を入れたのは、金網や回し車の角に足を挟んで抜けなくなり、もがいて骨折するという事故を、複数の動物病院が典型例として挙げていたからです。出たがる行動と無関係ではありません。
相談先は、エキゾチックアニマルに対応した動物病院へ。犬や猫は診ていても小動物は診ていない病院もあるので、何もないうちに近所の対応病院を調べておくと、いざというとき慌てません。最終的な判断はかかりつけの獣医師にご確認ください。
環境以外の理由で落ち着かないこともある
ケージの中を見直しても落ち着かない。そういうときは、環境以外の要因も一度疑ってみてください。時間や季節に関わる話をまとめます。
迎えたばかりの時期
迎えて間もない子が落ち着かないのは、環境が足りないからではなく、まだ知らない場所にいるからです。前の章で書いたとおり、最初の1日はそっとしておくのが基本になります。
私の場合も、初日はほとんど出てきませんでした。焦らず毎日声をかけて餌をやる、を繰り返しただけです。気をつけたのは驚かせないこと。後ろからいきなり触らない、大きな音を出さない。それだけでした。
暑い日と寒い日
暑くなると涼しい場所を探して動き回る子もいます。飼育の適温は、一般に20〜25℃前後、湿度は40〜60%前後が目安とされています。この数値の一次の出典までは私も辿れていないので、あくまで広く言われている目安として書いておきます。
寒いほうでは、15℃を下回ると活動量が減り、10℃以下になると疑似冬眠のリスクが高まるとされます。こちらも同じく目安の温度です。
大事なのは数値そのものより、ケージのある場所に温度計を置いて実際に測ることでしょう。部屋の温度とケージの中の温度は、思っているより違います。私も温湿度計を置いて、25℃を超えないように様子を見ています。
夏場にケージの中だけ熱がこもっているようなら、置き場所と通気の見直しが先になります。そのあたりはケージの暑さ対策で置き場所と通気口を見直す記事に詳しく書きました。
日によって落ち着き方が違うこと
「昨日は静かだったのに今日はずっとかじっている」ということもありますよね。ゴールデンハムスターには4日ほどの周期があるとされていて、体の状態が日ごとに変わります。
ただし、その周期と出たがる行動を直接結びつけたデータには辿り着けませんでした。ですので「日によって落ち着き方が違うことはある」という範囲にとどめておきます。原因を無理に断定しないほうが、かえって見誤りません。
「いつもと違う」が続くとき
最後に正直なところを書きます。「出たがるのは病気のサイン」と言い切れる根拠は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。だからここでそう書くつもりはありません。
言えるのは、急に増えた、逆に急に減った、といった「いつもと違う」状態が続くなら相談の材料になる、というところまでです。前の章の受診の目安と合わせて見てあげてください。
よくある質問
- 一度ケージから出したら、毎日出さないとかわいそうですか
-
毎日出す必要はありません。ケージを作っているメーカーは、かじった直後に扉を開けると、かじる習慣がつく可能性があると注意しています。出す日を決めて一貫させるか、その分ケージの中を充実させる形で問題ありません。
- ケージをかじるのをやめさせるには、まず何をすればいいですか
-
最初に見直したいのは床材の深さです。研究では、床材を深くしたグループで金網をかじる行動が観察されなくなりました。メーカーの公式ページでも、床材を厚く敷いて掘れる環境にすることが対策に挙げられています。
- 床材はどのくらいの深さにすればいいですか
-
決まった正解はなく、目安は「その子が全身で潜れる深さ」です。研究で使われた80cmは家庭では現実的ではないので、今の量より厚く、掘れる素材にする、という方向で考えれば十分だと思います。
- ハムスターボールで運動させてもいいですか
-
動物福祉団体のRSPCAは、ストレスや怪我の懸念があるとして使用を推奨していません。視覚以外の感覚が制限されること、通気孔に足を挟む危険などが理由です。外で運動させるなら、サークルを使う方法が勧められています。
- 天井にぶら下がって落ちるのですが、病院に行くべきですか
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落ちてすぐ普通に動いているなら、まず様子を見ます。ただし足を引きずる、片足を浮かせている場合は、金網に足を挟んだ骨折の例もあるため、エキゾチックアニマル対応の動物病院にご相談ください。
ハムスターがケージから出たがるときは、まずケージの中を変える
長くなったので、要点をまとめます。この記事の結論は1つで、出す・出さないの二択で悩む前に、ケージの中身を見直すほうが先だ、というものです。
- かじる原因は1つではない。メーカーはストレス・遊び足りない・歯の状態の3つを並べている
- 研究でいちばん効いたのは床材の深さ。次に回し車が回ること、そのサイズ、ケージの広さ、暗い巣箱の順
- 広さは効くが、いちばん広いケージでもかじりは残った。買い替えは最後でよい
- かじった直後に扉を開けたり餌を与えたりすると、かじる習慣がつく可能性があるとメーカーが注意している
- 外に出すならサークルの中で、目を離さずに。ハムスターボールは福祉団体が推奨していない
- 餌の減りが遅い、前歯の様子が違う、顎や目が腫れているときは、エキゾチック対応の動物病院へ
もう一度だけ、いちばん強い事実を書いておきます。床材を80cmまで深くしたグループでは、金網をかじる行動が一度も観察されませんでした。かじり木でも広いケージでもなく、床材だったのです。
夜中にガリガリという音を聞きながら、自分の飼い方が悪いのかと落ち込んでいる方もいるでしょう。私もケージの床面積を計算して気まずくなった側の人間です。でも、いちばん効く一手が、いちばんお金のかからない床材だったのは救いだと思いませんか。
迎えて1週間の子なら、まだ環境より慣れの問題かもしれません。1年以上暮らしていて急にかじり始めたなら、床材の量、回し車の回り具合、巣箱の暗さの順に見ていくのが近道です。
今夜できることを1つだけ挙げるなら、床材の深さを測ってみてください。全身が隠れる深さまで潜れているか。そこが出発点になります。あわせて、餌の減り方や前歯の様子で気になる点があれば、早めにエキゾチックアニマル対応の動物病院にご相談ください。
参考文献
- Gerber E. ほか(2008)Housing influences research results and animal welfare in golden hamsters(ベルン大学 ヴェツスイス学部 動物飼育・福祉部門)
- Hauzenberger A.R., Gebhardt-Henrich S.G., Steiger A.(2006)The influence of bedding depth on behaviour in golden hamsters (Mesocricetus auratus), Applied Animal Behaviour Science 100
- Fischer K., Gebhardt-Henrich S.G., Steiger A.(2007)Behaviour of golden hamsters (Mesocricetus auratus) kept in four different cage sizes, Animal Welfare 16
- Reebs S.G., St-Onge P.(2005)Running wheel choice by Syrian hamsters, Laboratory Animals 39(4)
- RSPCA「Hamster Balls」ペットケアシート(RSPCA Companion Animals Department)
- RSPCA「Taking your new hamster home: Guidance for new hamster owners」(2014年最終更新)
- 環境省「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年環境省告示第37号/最終改正 平成25年環境省告示第82号)
- ジェックス株式会社「ハムスターがケージをかじってしまう原因を知りたい。」製品Q&A
- 株式会社三晃商会「ルーミィ60 ベーシック」(品番C601)製品ページ
- ハムスター情報室「専門獣医師が解説するハムスターの不正咬合〔Ver.2〕」(2020年)
